相続登記していない土地は売れる?2024年義務化と売却方法
この記事でわかること
Q. 相続登記していない土地は売却できますか?
Q. 相続登記の義務化で罰則はありますか?
Q. 相続登記が難しい場合の対処法は?
相続登記の義務化とは
2024年4月1日から、相続登記が義務化されました。費用や期間の詳細は「相続登記の費用と期間」をご覧ください。
義務化の内容(不動産登記法第76条の2)
不動産登記法第76条の2第1項により、相続で不動産を取得したことを知った日から 3年以内 に登記する義務が課されました。正当な理由なく怠ると 10万円以下の過料 が科される可能性があります(同法第164条)。なお、2024年4月1日以前に発生した相続も対象で、 2027年3月31日 までの猶予が設けられています。
なぜ義務化されたのか
全国で増加する「所有者不明土地」が社会問題になったためです。国土交通省の調査(2016年)によると、全国の土地の 約24% が所有者不明で、その面積は約410万ヘクタール(九州本島を上回る規模)に達しています。所有者不明の原因の 63%が相続登記の未了 です(国土交通省「所有者不明土地等対策」)。
所有者不明土地は、災害復興や公共事業の用地取得の妨げになり、空き家問題とも密接に関連し、隣接地の購入や活用にも支障をきたします。土地が物理的にそこにあっても、誰の土地か分からなければ社会的には機能不全と同じ、というのが義務化の前提認識です。
相続登記していない土地は売れるのか
結論から言うと、 相続登記をしないと土地は売却できません 。
売却に登記が必要な理由
不動産の売買では、登記簿上の所有者から買主への所有権移転登記を行います。 民法第177条 により、不動産に関する物権変動は登記をしなければ第三者に対抗できません。
登記簿に被相続人(故人)の名前が残っている場合、相続人から買主への移転登記ができないため、売却手続き自体が進められません。具体的には、まず相続登記で被相続人から相続人へ名義を移し、その後に売買による移転登記で相続人から買主へ移すという2段階の手続きが必要になります。
未登記のまま売れない理由
実務上の制約は明確です。登記簿の名義人でないと売却手続きそのものを進められず、買主は登記の通っていない不動産を購入できません。金融機関も登記が整っていない不動産は融資の担保として認めないため、買主が住宅ローンを組むこともできなくなります。結果として、買い手が現れても契約に進めない、という形で売却の話そのものが止まります。
相続登記をして売却する流れ
ステップ1:相続人の確定
被相続人の戸籍謄本を出生から死亡まで取得し、法定相続人を確定します。
ステップ2:遺産分割協議
相続人が複数いる場合、誰が不動産を相続するかを協議します。典型的なパターンは、一人が単独で相続するか、複数人で共有するか、代償分割(一人が不動産を取得し、他の相続人に金銭で調整する)かのいずれかです。共有を選ぶと将来の売却時に全員の同意が必要になるため、可能なら単独相続もしくは代償分割を選ぶケースが実務では多くなります。
ステップ3:必要書類の収集
主な必要書類
- 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)
- 相続人全員の戸籍謄本
- 住民票
- 遺産分割協議書(協議した場合)
- 印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
ステップ4:相続登記の申請
法務局に登記申請書と必要書類を提出します。
費用の目安
- 登録免許税:固定資産評価額の0.4%( 登録免許税法 別表第一 一(二)イ 。国税庁「登録免許税の税額表」参照)
- 司法書士費用:5〜15万円程度(事務所により幅あり)
ステップ5:売却手続き
登記完了後、通常の不動産売却と同様に進めます。
相続登記が難しいケース
実務で登記が難航する典型は、大きく4つあります。
ひとつは 相続人が多い ケースで、数次相続(相続中に次の相続が起きること)が発生して相続人が10人以上に膨れ上がると、全員の同意と書類を揃えるだけで大仕事になります(詳細は「相続人が多すぎて登記できない土地の処分方法」を参照)。
ふたつめは 相続人と連絡が取れない ケース。疎遠になった相続人がいると、戸籍からの追跡や住所地調査から始めなければなりません。
みっつめは 遺産分割がまとまらない ケースで、相続人同士の意見対立で協議書が作れず、登記まで進めない状況です。
よっつめは 相続放棄した人がいる ケース。放棄の有無を全員分確認し、放棄者を除いた残りで協議をやり直す必要があります。
困難なケースの解決方法
法定相続分での登記
遺産分割協議がまとまらない場合でも、法定相続分での登記は相続人の一人が単独で行えます。他の相続人の同意なしに登記でき、義務化への対応もとれる点がメリットです。一方で、登記の結果は法定相続分どおりの共有状態になり、売却するには共有者全員の同意が必要になるというデメリットがあります。共有人数が多いと、後に共有を解消する手間は決して小さくありません。
相続人申告登記(不動産登記法第76条の3)
2024年4月から導入された簡易な登記制度です。遺産分割協議がまとまらない場合でも、この手続きを行えば 相続登記の義務を履行したとみなされます 。
特徴は3つあります。「自分が相続人である」ことを法務局に申告するだけで完了し、遺産分割協議や相続人全員の同意は不要です。これにより義務化の 過料(法第164条)を免れる ことができます。ただし、これはあくまで「義務を履行したとみなす」ための手続きであって、売却するには別途正式な相続登記(所有権移転登記)が必要であることには注意してください。
専門家への依頼
複雑なケースでは、司法書士や弁護士への依頼が有効です。依頼すると、戸籍収集の代行から相続人調査、遺産分割協議のサポート、登記手続きの代行まで一貫して任せられます。複雑な事案ほど、自力でやって時間を浪費するよりコストパフォーマンスが良くなる傾向があります。
罰則と過料
過料の対象(不動産登記法第164条)
正当な理由なく相続登記を怠った場合、 10万円以下の過料 が科される可能性があります。登記官が義務違反を把握した場合、まず相当の期間を定めて催告し、それでも応じなければ管轄の地方裁判所に事件を通知する仕組みです。
正当な理由とは
「正当な理由」として過料が免除される可能性があるのは、相続人が極めて多数で戸籍収集に時間がかかる、遺言の有効性について争いがある、重病等で手続きが物理的に困難、経済的に困窮している——といった事情が認められるケースです。いずれも単なる「忙しい」「面倒」では足りず、客観的に手続きを進めにくい状態であることが必要です。
過料を避けるには
過料を避ける王道は、期限内に正式な相続登記を完了させることです。それが困難な場合は、相続人申告登記で義務だけは履行する、あるいは早めに専門家に相談して対応策を検討するという選択肢があります。期限ギリギリで対処を始めると、戸籍収集や協議に想定外の時間がかかり間に合わないこともあるため、余裕を持って動くのが結局は近道です。
なお、相続放棄を検討中の場合でも、放棄後に「占有」している土地には管理責任が残るケースがあります。詳しくは「相続放棄した土地の管理責任|売却以外の選択肢」をご覧ください。
【筆者の事例】過料10万円では動かない人がいる
筆者は現在、知人の相続未登記の土地について、本人の代わりに登記手続きを進めています。長年放置されてきたこの案件は、義務化告知でも過料告知でも動きませんでした。動いたのは別のきっかけです。
「罰金払えばいいんだろう」
その知人は、自身の代の相続登記が未了の土地を持っていました。本人は土地の存在を昔から把握していましたが、相続の責任の重さに耐えられず、長年登記から目を背けてきました。
筆者が「相続登記をしたほうがいい」と説得を始めたのは数年前です。返ってきたのは「勘弁してくれ」のひと言でした。
2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される(不動産登記法第76条の2、同法第164条)と告知された後も、本人の反応は変わりませんでした。
「罰金払えばいいんだろう」
これが本人の口癖でした。10万円の過料は、本人にとって登記の煩雑さより軽く見えていたのです。
動いたのは「管理責任」の話
事態が動いたのは、隣地の方から土地の管理についてクレームが入ったことを契機に、筆者が 管理責任の中身 を具体的に説明したときでした。雑草や枯木の放置・建物の倒壊リスクで第三者に被害を与えれば損害賠償責任を負う可能性があり、訴訟になれば過料10万円どころの金額では済まない。さらに「現に占有している」状態である以上、相続放棄しても管理責任からは逃れにくい(民法940条/2023年改正)——こうした内容を、本人が想像できる具体的な被害シナリオに落とし込んで伝えました。
罰金告知では微動だにしなかった本人が、この話の直後に「相続登記を進めてくれ」と相談してきました。詳しくは「相続放棄した土地の管理責任」を参照してください。
着手後の感想と副次的発見
司法書士と連携して実際の手続きに入ると、本人の口調が一変しました。
「こんなものなのか?だったらもっと早くにやっておけばよかった」
着手前の心理的ハードルは、実際の手続きの面倒さよりはるかに大きかったわけです。さらに、登記簿を確認したことで 60年前の贈与による共有持分 (隣接地の一部)が新たに発覚し、別途の相続登記対応が必要になりました(共有持分の問題は「共有名義の不動産を放置すると?」で扱います)。
この事例から見えること
ここから見える教訓は、 義務化アナウンスや過料告知が動機にならない人が実在する ということです。動機の感受性は人によって違い、過料リスクに反応する人もいれば、賠償リスクで初めて動く人もいます。
加えて、着手前の心理的ハードルが行動を止めているケースも多く見られます。実際の手続きはイメージよりはるかに軽いことが多く、本人が動き出してしまえば「こんなものか」と拍子抜けする例は珍しくありません。そして登記を後回しにすればするほど、知らない権利関係(今回のケースでは共有持分)が静かに積み重なっていきます。
過料リスクで動かない方は珍しくありません。動機が見つからずに先延ばしている方は、司法書士や買取業者に一度相談するだけでも、見通しが立って心理的ハードルが下がる場合があります。
未登記不動産の買取サービス
相続登記が困難なケースでは、買取業者に相談する方法もあります。買取業者は単に物件を買い取るだけでなく、相続登記の手続きサポートや提携司法書士の紹介、複雑な権利関係への対応まで担うことが多くあります。
実際の流れは、買取業者への相談から始まり、査定・価格提示、相続登記の完了、最後に売買契約・決済というステップを踏みます。相続登記と売却を同時並行で進められるため、自分で登記を済ませてから売却先を探すよりスムーズに現金化できる点がメリットです。
まとめ
2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される可能性があります。土地を売却するには、まず相続登記を完了させなければなりません。手続きが困難なケースでは、相続人申告登記で義務だけ履行する、または司法書士・買取業者に相談するのが現実的な打ち手です。
本記事の事例で見たように、過料告知では動かなくても、管理責任の話で初めて動くケースもあります。動機は人によって違うので、自分にとって何が引き金になるかを整理してから動くと、先延ばしから抜け出しやすくなります。
相続未登記の不動産の売却全般については「相続未登記の売却・買取」もあわせてご覧ください。
参考リンク
- 法務省「相続登記の申請義務化特設ページ」
- 法務省「相続登記の申請義務化に関するQ&A」
- 法務省「相続登記の申請義務化について」
- 不動産登記法 | e-Gov法令検索(第76条の2:相続登記の申請義務/第76条の3:相続人申告登記/第164条:過料)
- 民法 | e-Gov法令検索(第177条:不動産物権変動の対抗要件)
- 登録免許税法 | e-Gov法令検索(別表第一:登録免許税の税率)
- 国税庁「No.7191 登録免許税の税額表」
- 国土交通省「所有者不明土地等対策」


