相続放棄した土地の管理責任|売却以外の選択肢

相続放棄した土地の管理責任|売却以外の選択肢

物件タイプ別 2026.02.25 公開 2026.05.06 更新
#相続放棄 #管理責任 #国庫帰属 #相続未登記

この記事でわかること

Q. 相続放棄しても管理責任は残りますか?
A. 2023年4月の民法改正で「現に占有している財産」に限り管理責任が残ります。占有していなければ管理義務はありません。
Q. 管理責任から解放される方法は?
A. 相続財産清算人(旧:相続財産管理人)の選任(予納金20〜100万円)、次順位の相続人への引き継ぎ、相続土地国庫帰属制度の利用などがあります。
Q. 相続土地国庫帰属制度の条件は?
A. 建物がない、担保権なし、境界明確、土壌汚染なしなど全条件を満たす必要があり、負担金20万円〜が必要です。

相続放棄を考える前に知っておきたいこと

相続した土地が遠方で管理が難しい、固定資産税の負担が重い、活用予定がない——こうした状況で「相続放棄」を選択肢として考え始める方は少なくありません。しかし、相続放棄をすれば土地から完全に解放されるかというと、そうではないケースがあります。

本記事では、相続放棄後にも残る「管理責任」の範囲(2023年4月の民法改正で明確化)と、相続財産清算人の選任・相続土地国庫帰属制度など、売却以外の選択肢を整理します。

相続登記の義務化については「相続登記していない土地は売れる?」もあわせてご覧ください。

相続放棄とは

相続放棄とは、相続人が相続する権利を放棄することです。

相続放棄の要件

相続放棄ができるのは、相続開始(被相続人の死亡)を知ってから3ヶ月以内です。家庭裁判所への申述という手続きで、認められると最初から相続人でなかったものとみなされます。期限を過ぎると原則として放棄できなくなるため、判断は早めに行う必要があります。

相続放棄が選ばれる理由

相続放棄が選ばれる典型的な動機は、被相続人に借金(マイナスの財産)が多くプラスを上回るケース、相続する不動産に資産価値がほとんどなく管理だけが負担になるケース、そして相続トラブルに関わりたくないケースの3つに大別できます。土地そのものへの関心がなく、現金化の見込みも薄い場合に検討されることが多い選択肢です。

相続放棄しても管理責任は残る?

2023年4月の民法改正

2023年4月1日に施行された民法改正により、相続放棄後の管理責任のルールが明確化されました。

改正前の規定は「相続財産の管理を継続しなければならない」とだけ定めており、どこまで管理を続ければ責任を免れるのかが不明確でした。改正後は管理責任の範囲が「現に占有している財産」に限定され、相続財産清算人(旧:相続財産管理人。被相続人の財産を整理する人で、家庭裁判所が選任)が選任されるまでが責任期間と整理されています。

現に占有しているとは

「現に占有している」とは、その土地を 実際に使用・管理している状態 を指します。所有権の有無ではなく、現実の関わりがあるかどうかで判断されます。

占有していると判断されるケース

  • その土地に住んでいる
  • 土地を使用している
  • 管理行為をしている(草刈り、修繕など)

占有していないと判断されるケース

  • 土地を見たこともない
  • 一度も管理したことがない
  • 遠方に住んでいて関与していない

管理責任の具体的な内容

管理義務の範囲

相続放棄者が負う管理義務は 保存行為(現状を維持するための最低限の行為。例: 修繕、不法占拠者の排除)に限られます。

保存行為の例具体的内容
現状維持土地や建物の現状を維持する
応急処置緊急の修繕や安全対策
保全措置第三者への被害防止

一方で、積極的な修繕や改良、売却や処分、賃貸による収益活動などは管理義務には含まれません。あくまで「壊さない・悪化させない」レベルの対応で足ります。

管理責任を怠るとどうなるか

管理を怠った結果、第三者に損害を与えた場合は損害賠償責任を負う可能性があります。たとえば、空き家が倒壊して通行人にケガを負わせた、雑草の繁茂で隣地に被害が及んだ、不法投棄の温床になり行政指導を受けた——こうした事態が典型例です。賠償額は事故の規模次第で、過料10万円とは比較にならない金額に膨らむこともあります。

【筆者の事例】管理責任の話で初めて動いた知人のケース

「相続放棄しても占有していれば管理責任は残る」という本記事のテーマは、その裏返しとして 「相続未登記でも、占有している以上、管理責任からは逃れられない」 ことを意味します。筆者は現在、知人の相続未登記の土地について、本人の代わりに登記手続きを進めています。長年先延ばしされてきたこの案件が、何をきっかけに動き出したかを共有します。

過料10万円では動かなかった

その知人は、自身の代の相続登記が未了の土地を持っていました。本人は土地の存在を昔から把握していましたが、相続の責任の重さに耐えられず、長年登記から目を背けてきました。

筆者が「相続登記をしたほうがいい」と説得を始めたのは数年前です。返ってきたのは「勘弁してくれ」のひと言でした。

2024年4月から相続登記が義務化され、3年以内に登記しないと10万円以下の過料が科される(不動産登記法第76条の2)と告知された後も、本人の反応は変わりませんでした。

「罰金払えばいいんだろう」

これが本人の口癖でした。10万円の過料は、本人にとって登記の煩雑さより軽く見えていたのです。義務化アナウンスは、この人物にとって行動の動機にはなりませんでした。

「管理責任」の話で態度が一変した

事態が動いたのは、 隣地の方から土地の管理についてクレームが入ったことを契機に、筆者が「管理責任」の中身を具体的に説明したとき でした。雑草や枯木の放置・建物の倒壊リスクで第三者に被害を与えれば損害賠償責任を負う可能性があり、訴訟になれば過料10万円どころの金額では済まない。さらに「現に占有している」状態である以上、相続放棄しても管理責任からは逃れにくい(民法940条/2023年改正)——こうした内容を、本人が想像できる具体的な被害シナリオに落とし込んで伝えました。

罰金告知では微動だにしなかった本人が、この話の直後に「相続登記を進めてくれ」と相談してきました。長年の抵抗が、わずか1回の会話で崩れた瞬間でした。

着手したあとの言葉

司法書士と連携して実際の手続きに入ると、本人の口調は一変しました。

「こんなものなのか?だったらもっと早くにやっておけばよかった」

着手前に膨らんでいた「面倒くさそう」「自分には無理そう」という不安と、実際の手続きの重さの間には、大きなギャップがあったようです。手続きが動き始めた後は、長年の心配がほぼ消えたように見えました。

この事例から見えること

少なくともこの事例で言えるのは、 過料10万円より管理責任に伴う賠償リスクのほうが、行動を促す力が強かった ということです。義務化アナウンスはマクロな抽象論で、本人にとって「自分の話」になりにくい。一方、管理責任は「目の前の隣地に迷惑がかかり、訴えられたら賠償を払う」という極めて具体的な被害シナリオを伴います。動機の質がまったく違うわけです。

もうひとつは、着手前の心理的ハードルが、実際の手続きの面倒さよりはるかに大きかったこと。本人が動かなかった年月の正体は、手続きそのものの重さではなく、見通しの立たないことへの漠然とした恐れでした。

そして副次的に、隣地クレームをきっかけに登記簿を確認したところ、 60年前の贈与による共有持分 (隣接地の一部)が新たに発覚しました。当事者にとっては完全な青天の霹靂です。相続登記を後回しにすると、自分が知らない権利関係が静かに積み重なっていく——これは机上では伝わりにくい、しかし実例ではよく出てくるパターンです。共有持分の問題については 共有名義の不動産を放置すると? で別途扱います。

過料リスクで動かない方は珍しくありません。動機は人によって違うので、義務化や罰金で動かなかったから自分は大丈夫、と考えるのは危険です。本記事を読んで「自分にとっての動機は何か」を整理する一助になれば幸いです。

相続放棄したから大丈夫は間違い?土地の「管理責任」と手放すための出口戦略:相続放棄後も「現に占有」していれば管理責任が継続し、管理義務は現状維持や応急処置などの「保存行為」に限定されるという責任の範囲、相続土地国庫帰属制度(2023年4月〜・負担金20万円〜)・全員が放棄した場合に必要な相続財産清算人の選任(予納金20〜100万円)・借金が多いなら相続放棄という財産状況に応じた出口の使い分け、売却以外の主な解決策にかかる費用と期間の比較(国庫帰属は数ヶ月・清算人選任は6ヶ月〜1年以上・相続放棄は3ヶ月以内)の整理

管理責任から解放される方法

方法1:相続財産清算人の選任

家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てることで、管理責任を清算人に移転できます。申立てができるのは利害関係人(相続放棄者本人も含まれます)または検察官で、申立費用は数千円ですが、予納金(家庭裁判所に手続き費用として事前に納める金銭)として20〜100万円程度を納める必要があります。選任までに1〜3ヶ月、清算完了までに6ヶ月から1年以上を見込んでおく必要があり、決して即座に責任から解放されるわけではないことに注意してください。

方法2:他の相続人に引き継ぐ

相続放棄しても、次順位の相続人がいれば、その人に管理が移ります。相続順位は子(第一順位)、親(第二順位)、兄弟姉妹(第三順位)の順で、上位がいない、もしくは全員が放棄した場合に下位へ移ります。全員が相続放棄すると、最終的には方法1の相続財産清算人の選任が必要になります。

方法3:相続土地国庫帰属制度

相続放棄ではなく、相続したうえで土地を国に引き渡す制度です。詳細は次章で扱います。

相続土地国庫帰属制度の詳細

制度の概要

2023年4月から開始された制度で、相続した土地を国に引き渡すことができます。

利用条件

以下の条件を すべて 満たす必要があります。

土地の状態に関する条件

  • 建物がない
  • 担保権や用益権が設定されていない
  • 通路として他人に使用されていない
  • 土壌汚染がない
  • 境界が明確
  • 崖地で管理に費用がかかる土地でない
  • 管理を妨げる有体物がない

申請できるのは相続または遺贈で取得した土地に限られ、共有の場合は共有者全員での申請が必要です。

費用

項目金額
審査手数料14,000円(土地1筆あたり)
負担金(宅地・田畑)面積に応じて算定(20万円〜)
負担金(山林)面積に応じて算定(20万円〜)
負担金(その他)20万円

※ 数値は法務省「相続土地国庫帰属制度の負担金」による。負担金は、原則として土地1筆あたり20万円ですが、宅地・田畑・森林の一部は面積に応じて算定されます。

手続きの流れ

  1. 法務局に相談
  2. 申請書類の準備
  3. 審査(数ヶ月)
  4. 承認通知
  5. 負担金の納付
  6. 国庫帰属

売却以外の選択肢比較

選択肢費用期間適したケース
相続放棄数千円3ヶ月以内借金が多い場合
相続財産清算人20〜100万円6ヶ月〜全員が放棄した場合
国庫帰属20万円〜数ヶ月更地で条件を満たす場合
売却仲介手数料等1〜3ヶ月価値がある場合
持分売却低コスト1〜2ヶ月共有の場合

判断のポイント

選択肢の使い分けは、被相続人の財産状況・土地への関心の度合い・他の相続人との関係で決まります。

被相続人に借金があり、土地にも価値がなく、他の相続財産にも特に関心がない場合は 相続放棄 が候補になります。逆に、土地以外の財産は相続したい・土地は国庫帰属の条件を満たしており費用も負担できる場合は 国庫帰属制度 が現実的です。土地に資産価値があり、現金化したく、他の相続人とも協力できる場合は 通常売却 がもっとも経済合理性に優れます。共有名義で他の相続人と協力できず、それでも早期に決着させたいなら、自分の持分だけ手放す 持分売却 がスピーディーな解決策になります。

注意点

相続放棄の期限は相続開始を知ってから3ヶ月以内で、これを過ぎると原則として放棄できなくなります。国庫帰属制度については、条件を満たさない土地は承認されないため、申請前に必ず法務局に相談しておくのが安全です。そして繰り返しになりますが、相続放棄しても「現に占有している」場合は管理責任が残ります。占有しているか否かは個別判断ですが、過去に管理行為(草刈り・修繕等)を一度でもしていると占有とみなされやすい傾向があります。早めに対策を検討してください。

まとめ

2023年4月の民法改正により、相続放棄後の管理責任は「現に占有している」場合に限定されました。占有していれば責任は残り、相続財産清算人の選任で初めて完全に解放されます。

売却以外の現実的な選択肢は、借金がある場合の相続放棄、全員が放棄したあとの相続財産清算人選任、更地で条件を満たす場合の相続土地国庫帰属制度の3本柱です。本記事の事例で見たとおり、行動を促す動機は人によって違います。義務化や過料告知では動かなくても、賠償リスクや具体的な手続きへの理解で動くケースもあります。先延ばししている方は、まず動機を整理し、必要なら司法書士や買取業者に相談してみてください。

相続未登記の不動産の売却全般については「相続未登記の売却・買取」もあわせてご覧ください。

参考リンク

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