共有名義の不動産を放置すると?相続で起きる問題
この記事でわかること
Q. 共有名義の不動産を放置するとどうなりますか?
Q. 共有者が増えすぎると何が問題ですか?
Q. 共有名義の不動産を早期に解消するにはどうすればいいですか?
共有名義の不動産、放置していませんか?
「相続で兄弟の共有になったけど、特に困っていないから」「とりあえず今のままでいいか」――共有名義の不動産を放置している方は少なくありません。
しかし、共有不動産の放置は 時間が経つほどリスクが大きくなります 。今は問題がなくても、5年後・10年後に取り返しのつかない状況になるケースは珍しくありません。
放置のリスク1:意思決定ができなくなる
共有不動産では、行為の種類によって必要な同意の範囲が異なります。
| 行為 | 必要な同意 | 具体例 |
|---|---|---|
| 保存行為 | 単独で可能 | 修繕、不法占拠者の排除 |
| 管理行為 | 持分の過半数 | 短期賃貸借、管理方法の変更 |
| 変更・処分行為 | 全員の同意 | 売却、建替え、長期賃貸借 |
つまり、 売却や建替えには共有者全員の合意が必要 です。共有者が2〜3人なら話し合いで解決できるかもしれませんが、人数が増えると合意形成は急速に難しくなります。
実際に起きていること
- 兄は「いつか住むかもしれない」と売却に反対
- 姉は「管理が面倒だから売りたい」
- 弟は「親の思い出がある家を壊したくない」
このような意見の対立があると、何年経っても結論が出ません。その間、建物は劣化し、不動産の価値は下がり続けます。
放置のリスク2:相続で共有者が増え続ける
共有名義の放置で最も深刻なのが、 数次相続による共有者の倍増 です。
共有者増加のシミュレーション
わずか3〜4世代で共有者が10人を超えます。相続が発生するたびに、面識のない親族が共有者に加わります。
共有者が増えると起きる問題
- 全員の連絡先が分からない :戸籍を辿って調べる必要がある
- 面識がない人と交渉が必要 :会ったこともない「いとこの子供」と合意形成
- 海外在住者がいる :署名・押印の手続きが困難
- 認知症の共有者がいる :成年後見人の選任が必要(費用20〜50万円)
- 家族と縁を切った共有者がいる :勘当や絶縁で親族も消息を知らず、戸籍の附票でも追えないケースがある
詳しいトラブル事例は「共有名義のトラブル事例」をご覧ください。
放置のリスク3:固定資産税の負担問題
代表者に全額請求される
共有不動産の固定資産税は、 共有者の中の代表者1人に全額が請求 されます。
固定資産税:年間15万円
共有者:3人(各1/3)
本来の負担:各5万円
実際の請求:代表者に15万円が届く
他の共有者から負担分を回収できればよいのですが、放置状態では次のような問題が発生します。
- 「使っていないのに払いたくない」と拒否される
- 連絡が取れない共有者がいる
- 負担割合で揉める
結果として、代表者が全額を負担し続けるか、 滞納して延滞金が発生する ことになります。
滞納するとどうなるか
固定資産税を滞納した後の手続きは、地方税法に期限が定められています。 「滞納◯ヶ月で督促状」といった月数は、法律の定めではありません。 法律上の期限は、一般に思われているよりかなり短く設定されています。
| 段階 | 法律上の定め | 根拠 |
|---|---|---|
| 督促状 | 納期限後 20日以内 に発しなければならない | 地方税法第371条第1項 |
| 差押え | 督促状を発した日から起算して 10日 を経過した日までに完納しないとき、滞納者の財産を差し押さえなければならない | 地方税法第373条第1項第1号 |
| 換価・公売 | 差し押さえた財産は、国税徴収法に規定する滞納処分の例により換価される | 地方税法第373条第7項 |
つまり 法律上は、督促状が発せられてから10日を過ぎた時点で、差押えの要件を満たします。
ただし、実際にその日数で差し押さえられるとはかぎりません。多くの自治体では、この間に催告書や差押予告書を送り、分割納付の相談に応じています。これらは法律で時期が定められた手続きではなく、自治体ごとの運用です。 裏を返せば「1年は大丈夫」といった全国共通の猶予期間もありません。 自分の自治体の扱いは、届いた書面と市区町村の窓口で確認してください。なお市町村は、条例で督促状の期間を別に定めることができます(地方税法第371条第2項)。
固定資産税を徴収する権利は、法定納期限の翌日から起算して 5年間 行使しないと時効で消滅します(地方税法第18条第1項)。ただし督促を受けると、督促状を発した日から10日を経過した日までは時効が完成せず、その期間を過ぎた時点から改めて進行し直します(地方税法第18条の2第1項第2号)。 放置して時効を待つという方法は、現実的ではありません。
放置のリスク4:共有者間のトラブル
よくあるトラブルパターン
パターン1:一人だけが住んでいる
共有者の一人が不動産に住んでいる場合、他の共有者から「家賃を払え」「使用料を負担しろ」と求められることがあります。裁判になるケースもあります。
パターン2:勝手にリフォームした
共有者の一人が独断でリフォームを実施し、他の共有者に費用負担を求めたものの、合意なく行ったため拒否されるケースがあります。
パターン3:管理を誰もしない
全員が「自分の責任ではない」と考え、建物の管理を放棄した結果、老朽化が進んで近隣から苦情が来ることがあります。
共有者との連絡に問題がある場合は「共有者と連絡が取れない場合の対処法」も参考になります。
実際にあった放置のケース
共有不動産の放置は、教科書的なリスクだけでは伝わらない問題を引き起こします。ここでは、実際に見聞きした事例を紹介します。
ケース1:関係者37名、取りまとめに3年
知人の買取業者が対応した案件では、相続登記が長期間放置された結果、 関係者が37名 にまで膨れ上がっていました。全員の意思確認と書類の取りまとめに 約3年 を要したそうです。
前述のシミュレーションでは3〜4世代で16人としましたが、現実にはそれをはるかに超える事態が起きています。
ケース2:曾祖父から放置、ブラジル移住者の消息不明
別の業者から聞いた事例です。 曾祖父の代から相続登記が放置 されており、祖父の世代でブラジルに移住した親族がいました。消息が完全に途絶えており、 不在者財産管理人の選任 を経て処理することになりました。
関係者の数自体は少なかったものの、一人が海外在住だったため、 司法書士を海外に派遣して書類を整える 必要がありました。これが可能だったのは都内の高額物件だったからです。地方の低価格な物件であれば、司法書士の渡航費用だけで採算が合わなくなります。
ケース3:9人兄弟でも相続人が少なかったケース
当社で扱った案件です。被相続人の祖父は9人兄弟で、数十名規模の関係者を覚悟しましたが、 戦争で半数が幼くして亡くなっていた こと、また健在な兄弟が数名いたことから、最終的な関係者は 十数名で済みました 。
9人兄弟と聞けば相続人は膨大な数になりそうですが、歴史的な背景で相続人が減っているケースもあります。ただし、これは結果論です。戸籍を辿って確認するまで、関係者が何人になるかは分かりません。この案件でも、調査の過程で二重本籍が抹消されていたことが判明するなど、戸籍の確認には想定外の手間がかかりました。
共通する教訓
どのケースにも共通するのは、 放置期間が長いほど解決コストが跳ね上がる ということです。関係者が少なくても海外在住者がいれば数百万円の費用がかかり、関係者が多ければ年単位の時間を要します。 これ以上放置すれば、さらに次の世代に問題が引き継がれます。
早期対応の選択肢
共有名義の問題は、早く動くほど選択肢が多く残されています。
選択肢1:共有者間で話し合う
全員が売却に合意できれば、不動産全体を売却できます。最も高値で売れる方法です。
向いているケース
- 共有者が少数(2〜3人)
- 全員と連絡が取れる
- 関係が良好
選択肢2:自分の持分だけを売却する
他の共有者の同意なしに、自分の持分だけを買取業者に売却する方法です。持分売却の仕組みは「共有持分だけ売却できる?」で詳しく解説しています。
向いているケース
- 話し合いがまとまらない
- 共有者と連絡が取れない
- 早く共有状態から離脱したい
価格の目安
- 持分相当額の50〜70%程度
- 例:評価額3,000万円の不動産の1/3持分 → 500〜700万円
選択肢3:共有物分割請求
裁判所に共有物の分割を求める手続きです。
| 分割方法 | 内容 |
|---|---|
| 現物分割 | 土地を物理的に分ける |
| 代償分割 | 一人が取得し、他の共有者に金銭を支払う |
| 換価分割 | 競売にかけて代金を分配 |
裁判にかかる費用は30〜100万円程度、期間は6ヶ月〜2年程度です。

まとめ
共有名義の不動産を放置するリスクをまとめます。
放置のリスク
- 意思決定ができなくなる(売却・建替え不可)
- 相続のたびに共有者が増える(数次相続)
- 固定資産税の負担が偏る
- 共有者間のトラブルが発生する
- 最終的に売りたくても売れなくなる
早期対応のメリット
- 共有者が少ないうちは合意形成しやすい
- 不動産の価値が下がる前に対処できる
- 次世代に問題を先送りしない
相続で共有になった不動産をお持ちの方は「相続で共有になった実家の対処法」もご覧ください。共有持分の基本的な仕組みや売却の全体像は「共有持分の売却・買取について」で解説しています。


