借地契約書を紛失し、地主とも連絡が取れない借地権|条件が重なると何が起きるか

借地契約書を紛失し、地主とも連絡が取れない借地権|条件が重なると何が起きるか

物件タイプ別 2026.09.01 公開
#借地権 #旧法借地権 #供託 #共有

この記事でわかること

Q. 借地契約書を紛失していると、借地権は売れないのですか?
A. 売れないわけではありませんが、証明の手間が増えます。借地権の存続期間・範囲・旧法か新法かといった条件を契約書以外で立証する必要があり、建物の登記事項証明書、地代の支払いを裏づける供託の記録、固定資産税の課税明細などを積み上げて間接的に示すことになります。買主側はその不確実性を価格に織り込みます。
Q. 地主と連絡が取れない場合、借地権は譲渡できますか?
A. 借地権の譲渡には原則として地主の承諾が必要です(民法第612条第1項)。承諾が得られない場合は、借地借家法第19条第1項にもとづき裁判所へ承諾に代わる許可を求める手続き(借地非訟)があります。ただし条文の入口は「借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合」で、建物とセットで譲る形が前提です。また地主の側から自分が譲り受けると申し立てられる介入権(同条第3項)もあります。時間と費用がかかる手続きです。
Q. 共有者が複数いる借地権は、過半数の同意で売れますか?
A. 売れません。2023年施行の改正民法で、共有物の「変更」のうち形状や効用の著しい変更を伴わない軽微変更は持分価格の過半数で決められるようになりました(民法第252条第1項)が、売却は共有物の処分そのもので軽微変更にはあたらないため、従来どおり共有者全員の同意が必要です(同法第251条第1項)。借地権の共有は準共有として共有の規定が準用されます(同法第264条)。
Q. 地代を供託し続けているのは不利になりませんか?
A. 不利にはなりません。地主が地代の受領を拒んでいる場合、供託は債務不履行を避けるための正しい対応です(民法第494条第1項第1号)。むしろ供託を怠ると地代の滞納と扱われ、契約解除の理由を与えかねません。供託記録は借地権が生きていることの資料にもなります。相続などで地主が誰か分からない場合も、債権者を確知できないときとして供託できます(同条第2項)。

一つひとつは、それほど珍しくない

旧法借地権を引き継いだ築50年以上の戸建て。借地契約書は紛失していて手元になく、地主は明け渡しを求めて地代の受け取りを拒んでいる。やむなく法務局に供託を続けているが、その通知書が十年ほど前に返送されてきて以来、地主とは連絡がつかない。土地は一筆のなかに複数の建物が入っていて、権利は四人の共有になっている。

こう並べると相当に特殊な物件に見えますが、条件を一つずつ取り出せば、どれもそれほど珍しいものではありません。当サイトでもそれぞれ個別に解説しています。

旧法借地権かどうかは「旧法借地権と新法借地権の違い」で扱っていますし、地主が承諾しない場面は「地主が承諾してくれない…借地権売却の対処法」に、地代の値上げや供託の話は「借地権を放置するリスク」にまとめてあります。共有名義の扱いは「共有持分を放置するリスク」が近いところです。

問題は、これらが一つの物件の上で同時に起きたときに何が起こるか、です。

重なると何が起きるか

売るには地主の承諾が要る。その地主と連絡が取れない

まず確かめておきたいのが、その借地権が賃借権なのか地上権なのかです。借地借家法第2条第1号は借地権を「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権」と定義しており、二つの型があります。地上権であれば物権なので、譲渡に地主の承諾は要りません。 以下は数のうえで大多数を占める賃借権型を前提にした話です。

賃借権であれば、第三者に譲るには原則として地主の承諾が必要です。民法第612条第1項が賃借権の譲渡と転貸に賃貸人の承諾を求めており、これに違反して第三者に使わせたときは賃貸人が契約を解除できるとされています(同条第2項)。

承諾が得られないときの逃げ道は用意されています。借地借家法第19条第1項は、借地権者が借地上の建物を第三者に譲渡しようとする場合に、地主に不利となるおそれがないにもかかわらず承諾しないときは、裁判所が承諾に代わる許可を与えられると定めています。いわゆる借地非訟です。

条文の入口が「建物の譲渡」である点は押さえておいてください。借地権だけを切り離して売るのではなく、建物とセットで譲る形が前提になります。

ただし、これは裁判所を使う手続きですから、申立ての準備から決定まで相応の時間がかかり、弁護士費用も発生します。売買のスケジュールを先に決めてしまうと、まず間に合いません。

もう一つ、見落とされやすい仕組みがあります。借地非訟を申し立てると、地主の側から「それなら自分が建物と借地権を譲り受ける」と申し立てることができます(同条第3項。介入権と呼ばれます)。裁判所が相当の対価を定めてそちらを命じることがあるため、申立てが必ず第三者への売却につながるとは限りません。もっとも、地主と連絡が取れない状態ではこの申立ては現実には出てきにくく、その意味では今回の設定に限れば影響は小さいと言えます。

契約書がないと「何を売るのか」を証明できない

借地権を買う側が知りたいのは、その借地権が「いつまで」「どの範囲で」「どういう条件で」存続するのか、です。契約書はそれを一枚で示す書類ですから、これが無いと、同じことを別の資料の積み上げで示さなければなりません。

建物の登記事項証明書から建築の時期をたどり、供託の記録から地代の額と支払いの継続を示し、固定資産税の課税明細で課税上の扱いを確認する。こうした間接的な資料をつないで輪郭を描くことになります。

なお、これらの書類を取り寄せるには地番が必要です。地番は住所(住居表示)とは別の番号で、両者は一致しないことが少なくありません。一筆の土地に複数の建物が建っている場合はとくにずれます。詳しくは「地番と住居表示は別物です」をご覧ください。

輪郭は描けても、契約書そのものの代わりにはなりません。更新料の取り決めがあったのか、増改築に承諾が要る特約が付いていたのか、といった個別の条件は、資料からは出てきません。買う側はその分からなさを、価格を下げる方向で織り込みます。

筆者は売買の重要事項説明の場で、買主の方に必ずこうお伝えしています。これらの契約書は本当に大事なので、無くさずに取っておいてください。何十年後になるかは分かりませんが、必ずこの土地を売るときが来ます。ご自身が売らなくても、お子さんやその先の世代が売るときが来るでしょう。そのときに書類が揃っていないと、売却は大変になり、手続きも複雑になります。普段は目にすることがなくても、一まとめにして大事に保存してください——と。

毎回同じことを申し上げるのは、書類が無いために話が前に進まなくなった物件を、いくつも見聞きしてきたからです。 契約書は、買った人のためというより、いつか売る人のために残す書類です。 そしてその「いつか売る人」は、たいてい契約の場にいない誰かです。

一筆のなかに複数の建物があると、借地の範囲が決まらない

土地の登記が一筆でも、その上に複数の建物が建っていれば、「この借地権はそのうちのどこまでか」を決めなければ売買の対象が定まりません。

契約書があれば範囲が書かれていることが多いのですが、それが無い以上、現地の使用状況と建物の配置から推定し、必要なら測量して境界を確定させることになります。ここでも時間と費用がかかりますし、隣接して使っている他の借地人がいれば、その方との認識合わせも要ります。

共有者が複数いると、全員の足並みが要る

権利が四人の共有であれば、借地権そのものを売るには共有者全員の同意が必要です。

借地権のように所有権以外の財産権を複数人で持つ状態は「準共有」と呼ばれ、共有の規定が準用されます(民法第264条)。そのうえで同法第251条第1項は、共有物に変更を加えるには他の共有者全員の同意が要るとしています。

ここは切り分けが要ります。2023年に施行された改正で、この「変更」から「その形状又は効用の著しい変更を伴わないもの」——いわゆる軽微変更——が外され、そちらは持分の価格に従った過半数で決められるようになりました(同法第252条第1項)。過半数で足りる場面が新しくできたということであって、売却が過半数でできるようになったわけではありません。

借地権そのものを売るというのは、共有者それぞれが持っている持分をまとめて手放す行為です。共有物を使ったり直したりする「管理」の話ではないので、過半数で決められる範囲には落ちてきません。全員の同意が要るのは、そのためです。

なお、共有者の誰かが所在不明になっている場合には、裁判所の裁判を得たうえで、その者以外の同意で変更を加える道があります(同法第251条第2項。これも2023年施行の改正で新設されたものです)。四人の足並みが揃わない理由が「連絡が取れない」であれば、検討する余地があります。

各自が自分の持分だけを処分する道は理屈のうえでは残りますが、持分だけを買う相手はまず見つかりませんし、その譲渡にも地主の承諾の問題がついて回ります。実際には、四人でひとつの意思決定にたどり着けるかどうかが分かれ目になります。

築50年を超えた建物は、価値がゼロで止まらない

木造住宅の場合、築50年ともなれば建物そのものの評価はほぼ残りません。厄介なのは、評価がゼロで止まらず、解体費という形でマイナスに振れることです。買主は取り壊しを前提に考えますから、その費用は価格から差し引かれます。

「朽廃」の話が出てくることはあるが、めったに認められない

旧法借地権に特有の論点として、建物の朽廃があります。念のため触れておきます。

借地借家法の附則第5条は、この法律の施行前に設定された借地権について、「その借地権の目的である土地の上の建物の朽廃による消滅に関しては、なお従前の例による」と定めています。旧法借地権では、建物が朽廃したときに借地権そのものが消滅するという旧法時代の規律が、いまも生きているということです。

ただし 朽廃のハードルは非常に高い ことを押さえておいてください。判例上、朽廃とは自然の経過による腐朽によって、全体として見たときに建物としての社会的・経済的な効用を失った状態を指すとされています。傷んでいる、古い、という程度では足りません。築50年でも、住める状態を保っているなら朽廃ではありません。

実務では、条件交渉のなかで地主側から持ち出されることがある論点、という位置づけです。実際に朽廃が認められた例は珍しく、築年数だけで借地権が消えることはない、と理解しておけば足ります。

供託を続けているのは、正しい判断です

ここは誤解されやすいところなので、はっきり書いておきます。

地主が地代の受け取りを拒んでいるとき、借地人が法務局に地代を供託するのは、民法第494条第1項第1号にもとづく正当な対応です。受け取ってもらえないからと支払いを止めてしまうと、地代の滞納として扱われ、契約解除の理由を地主に与えかねません。供託は、それを避けるための手段です。

相続などで地主が誰なのか分からなくなった場合にも供託の道は残ります。債権者を確知することができないときも供託できると定められているためです(同条第2項)。ただし、確知できないことについて借地人の側に落ち度があるときは認められません。

通知書が返送されてきたとしても、供託そのものの効力が失われるわけではありません。むしろ十年にわたる供託の記録は、借地権が現在も生きていることを示す資料として働きます。ここを続けてきた判断は、後から取り返せない類のものです。

もっとも、これは供託そのものが適法に成立していることが前提です。供託の理由、金額、供託所の管轄といったところに問題があれば別の話になります。通知書が返ってきたことは無効の原因になりませんが、それとこれとは別だということです。

なぜ査定に、あれこれ資料を求めるのか

こうした物件の査定を依頼されたとき、私たちは室内の写真や地主との取り決めの内容といった、細かい資料をお願いすることがあります。立ち入ったことを聞かれると感じられるかもしれません。

理由は単純で、ここまで見てきたとおり、 この種の物件は資料の量がそのまま価格の精度になるからです。承諾が取れるのか、範囲がどこまでか、建物がどんな状態か。分からない部分は、買う側がリスクとして見積もり、その分だけ低い数字になります。逆に、分かっている部分が増えるほど、割り引く理由が減ります。

資料が揃わないまま数字だけを出すことはできます。ただしそれは、あらゆる不確実性を織り込んだ、いちばん低い数字になります。それでは相談された意味がありません。

それでも、出口が無いわけではない

地主と連絡が取れない場合、道はほとんど一本に絞られます。承諾をもらう相手がいないのですから、承諾を前提とする手段——地主に買い取ってもらう、底地と一緒に売る——はどれも入口で止まります。借地権付き建物を第三者に売るための中心的な手続きは、裁判所に承諾の代わりを求める借地非訟になります。 数ある選択肢のひとつというより、他が塞がった結果として残る本筋だと考えたほうが実態に近いでしょう。

そのぶん、手続きが軽くなるわけではありません。相手方の所在が分からなければ公示送達によることになり、住民票や不在籍証明、返送された郵便の写し、所在調査の報告書といった資料を揃えたうえで、官報公告から2週間を経て送達の効力が生じます。連絡が取れないから早く済む、ということはありません。

厳密にいえば、迂回路が無いわけではありません。地主が生存していて所在だけ分からないのであれば、借地人が利害関係人として不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立て(民法第25条第1項)、その管理人から承諾を得る道があります。地主が亡くなって相続人が分からないのであれば、相続財産清算人の選任という道もあります(同法第952条)。ただし管理人が承諾するには家庭裁判所の許可が別途必要ですし(同法第28条)、清算人のルートは公告だけで6か月を下りません。いずれも予納金がかかり、承諾が得られる保証もありません。時間・費用・家庭裁判所の許可・承諾の不確実性を考えると、承諾を得るためだけにこれらを使うのは、通常は借地非訟より重くなります。ただし地主が亡くなって相続関係がある程度はっきりしているような場合には、こちらのほうが目的に合うこともあります。

地主の側に相続が発生していれば、相続人が現れて話が動くこともあります。連絡がついた後であれば、底地とあわせて解消する道も出てきます。詳しくは「底地と借地権の同時売却」をご覧ください。

いずれにせよ、共有者四人の足並みを揃えるところから始まります。ここが動かないと、他がどれだけ整っても前に進みません。

なないろ土地査定の姿勢

条件が重なった物件を、重なっているという理由だけでお断りすることはしません。再建築不可、借地、共有持分、災害区域といった難物件は、これまでも取り扱ってきました。

一方で、資料が揃わないまま「たぶんこのくらい」という数字をお出しすることもしません。この記事で書いたとおり、分からない部分は価格を下げる方向にしか働かないからです。買えるのか、買えないのか、買えるとしてどういう段取りが要るのか。判断できる材料をいただいたうえで、正直にお伝えします。

買えない場合も、その理由を添えてお返しします。

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