相続した農地の売却方法|売れない農地の処分
この記事でわかること
Q. 農家でなくても農地を相続できますか?
Q. 相続した農地が売れない場合はどうすればいいですか?
Q. 農地の相続後に必要な手続きは?
農地を相続したら
相続後の手続き
農地を相続した場合、主に3つの手続きが必要です。売却をお考えの方は「農地の売却方法」もあわせてご覧ください。
1つ目は 相続登記 です。不動産登記法第76条の2により、2024年4月から相続登記が義務化されました。相続を知った日から 3年以内 に登記しなければ、正当な理由がない場合は 10万円以下の過料 が科されます(同法第164条第2項)。
2つ目は 農業委員会への届出 です。農地法第3条の3により、相続で農地の権利を取得した場合は、その農地がある市区町村の農業委員会に届出が必要です。届出期限は 相続を知った日から10ヶ月以内 で、届出しないと 10万円以下の過料 が科されます(農地法第69条)。
3つ目は 固定資産税の納付 です。相続登記が完了していなくても、相続人は固定資産税の納税義務を引き継ぎます。
農家でなくても相続できる
農地の相続には農地法第3条の許可は不要です。農家でなくても相続できます。ただし、相続後に農地を 売却するには農地法第3条または第5条の許可 が、 転用するには第4条または第5条の許可 がそれぞれ必要です。また、耕作せずに放置すると農業委員会から利用意向調査や指導を受ける可能性があります(農地法第30条〜第36条)。
相続した農地の選択肢
相続した農地の扱いは、大きく4つの選択肢があります。
選択肢1:自分で耕作
相続した農地を自分で耕作する方法です。農地を維持でき、自給自足や趣味として活用できます。ただし、農作業の負担は小さくなく、農地が遠方にある場合は現実的に困難です。
選択肢2:貸し出し
農家に貸し出す方法です。地代収入が得られ、農地の維持管理を借り手に任せられるのがメリットです。一方、農地の賃料は住宅地に比べて非常に安く(年間で1反(約1,000㎡)あたり数千円〜数万円程度)、借り手が見つからないケースもあります。
貸し出しの方法としては、農業委員会のあっせん、 農地中間管理機構(農地バンク) への貸付、近隣農家への直接交渉があります。農地中間管理機構は 農地中間管理事業の推進に関する法律(平成25年法律第101号) に基づく公的機関で、都道府県ごとに設置されています。
選択肢3:売却
農地を売却して現金化する方法です。管理の手間と固定資産税の負担から解放されます。ただし、農地法の許可が必要で買い手が限られるため、宅地に比べて価格は低くなります。詳細は次のセクションで解説します。
選択肢4:相続放棄
相続が発生する前(厳密には相続の開始を知った日から3ヶ月以内)であれば、家庭裁判所に相続放棄の申述をすることができます(民法第915条・第938条)。ただし、相続放棄は 全ての相続財産を放棄 することになり、農地だけを選んで放棄することはできません。また、放棄した場合は次順位の相続人に権利が移ります。
農家でない人が農地を売却する方法
方法1:農家への売却(農地法第3条許可)
農地のまま他の農家に売却する方法です。農地法第3条では、農地の権利移動(売買・賃貸借等)には農業委員会の許可が必要と定めています。買い手は農業従事者(または農業法人)に限られます。
売却の流れは、①買い手となる農家を探す → ②農業委員会に第3条許可を申請 → ③許可取得 → ④売買契約・所有権移転登記 となります。買い手の探し方は、農業委員会のあっせん、農地中間管理機構、近隣農家への声かけ、農地の取り扱いがある不動産会社への相談があります。
方法2:転用して売却(農地法第5条許可)
農地を宅地・駐車場・資材置場などに転用し、転用目的を持つ買い手に売却する方法です。農地法第5条では、転用目的で農地の権利移動を行う場合に都道府県知事等の許可が必要と定めています。
転用許可が下りるかどうかは、農地の区分によって異なります。 市街化区域内の農地 は農業委員会への届出のみで転用できます(農地法第5条第1項第7号)。 第3種農地(鉄道の駅から300m以内など市街地にある農地)は原則許可されます。 第2種農地 は周辺の他の土地で代替できない場合に限り許可されます。一方、 第1種農地(集団的に存在する良好な農地)や 農用地区域内の農地 は原則として転用不許可です。
方法3:農地中間管理機構への売却
農地中間管理機構(農地バンク)に売却する方法です。公的機関を通じた取引のため安心感があり、適正価格での売買が期待できます。また、農地バンクへの売却では譲渡所得税の特別控除(後述)を受けられる場合があります。
売れない農地の対処法
農地は宅地と異なり、買い手の制約(農業従事者に限定)や転用許可の壁があるため、なかなか売れないケースが少なくありません。放置リスクについては「農地を相続放置するリスク」で詳しく解説しています。
対処法1:農地中間管理機構への貸付
売却が難しければ、まず農地バンクへの貸付を検討しましょう。地代収入が得られ、農地の管理を借り手に任せられます。貸付期間終了後に再度売却を検討することもできます。
対処法2:相続土地国庫帰属制度
「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(令和3年法律第25号) に基づき、2023年4月27日から施行された制度です。相続で取得した不要な土地を、一定の要件を満たせば国に引き取ってもらえます。
要件としては、建物がないこと、担保権が設定されていないこと、境界が明確であること、土壌汚染がないこと、通路等に利用されていないことなどがあります(同法第2条第3項・第5条)。
負担金は土地の種目によって異なり、農地の場合は 面積に応じた算定式 で計算されます(同法第10条)。審査手数料は1筆あたり14,000円です。詳しくは法務省の制度案内ページをご確認ください。
対処法3:無償譲渡
買い手がいない場合は、近隣農家や農業法人への無償譲渡を検討します。固定資産税の負担と管理の手間から解放されるメリットがあります。ただし、受け取る側に 贈与税 がかかる場合がある点と、農地法の許可が必要な点に注意してください。
耕作放棄は避けるべき
耕作を放棄すると、農業委員会の利用意向調査の対象になり(農地法第32条)、改善が見られない場合は農地中間管理機構への協議の勧告(同法第36条)を受ける可能性があります。遊休農地と認定されると 固定資産税が1.8倍 に引き上げられる場合もあります(平成28年度税制改正)。近隣農地への雑草や病害虫の被害で損害賠償を求められるリスクもあるため、放置は避けるべきです。
税金の特例
相続税の納税猶予(租税特別措置法第70条の6)
農業を営んでいた被相続人から農地を相続し、相続人が引き続き農業を行う場合、農地にかかる相続税の納税が猶予される制度です。相続人が終身営農を続ければ相続税は免除されますが、農業をやめたり農地を売却した場合は猶予が取り消され、利子税と合わせて相続税を納付する必要があります。
譲渡所得税の特別控除
農地を売却した場合、以下の特別控除が適用される場合があります。
- 800万円特別控除(租税特別措置法第34条の3第2項第1号)— 農地中間管理機構の農用地利用集積等促進計画により農用地区域内の農地を譲渡した場合に適用
- 1,500万円特別控除 — 農業経営基盤強化促進法に基づき農地バンクとの買入協議により農地を譲渡した場合に適用
いずれも確定申告が必要です。要件の詳細は税務署または税理士に確認してください。
相続登記の義務化(2024年4月施行)
2024年4月1日から、改正不動産登記法(令和3年法律第24号)により相続登記が義務化されました。農地も例外ではありません。相続を知った日から 3年以内 に相続登記を申請しなければならず、正当な理由のない違反には 10万円以下の過料 が科されます(不動産登記法第76条の2・第164条第2項)。
相続登記に必要な書類は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、遺産分割協議書(法定相続分以外の場合)、固定資産評価証明書、相続人の住民票です。法務局の窓口で手続きできるほか、司法書士に依頼する場合の費用は5〜10万円程度が目安です。
まとめ
相続した農地は、相続登記(3年以内)と農業委員会への届出(10ヶ月以内)を済ませた上で、自分で耕作するか、貸し出すか、売却するかを検討します。
売却方法は、農家への売却(農地法第3条許可)、転用して売却(第5条許可)、農地中間管理機構への売却の3つがあります。農地バンクへの売却では800万円の譲渡所得税特別控除が受けられる場合があります。
売れない場合は、農地中間管理機構への貸付、相続土地国庫帰属制度の利用、無償譲渡を検討してください。耕作放棄は固定資産税の引き上げや農業委員会からの指導につながるため、避けるべきです。
農地の買取相場や農地法第3条・第5条の仕組みは「農地の買取・売却」で解説しています。


