市街化調整区域の農地付き宅地が売れない理由|なないろ土地査定が査定を断った実例
この記事でわかること
Q. 市街化調整区域の農地付き宅地が売れないのはなぜですか?
Q. なないろ土地査定でも買い取れないのですか?
Q. 全員で相続放棄すれば問題は解決しますか?
査定を断った相談
なないろ土地査定に、市街化調整区域にある農地と宅地のセットの査定依頼があった。
パートナー企業と協議しましたが、買取・流通の両面で出口を組み立てられず、対応不可と判断しました。
買取・査定メディアの多くは「どんな物件でも査定します」「必ず買い取ります」と書きます。しかし現実には、構造的に市場が機能していない物件カテゴリが存在します。なないろ土地査定は 再建築不可・借地権・共有持分・災害区域 など、世間的に「売れない」とされる物件の買取実績を積み重ねてきました。それでも、市街化調整区域の農地付き宅地のセットだけは、対応できない場合があります。
この記事は、なぜ売れないのか、その構造を正直に解説するものです。
なぜ売れないのか — 4つの構造的な壁
1. 法的な壁:農地法と都市計画法の二重規制
農地の側:農地法3条・5条
農地を売却するには、原則として農業委員会の許可が必要です。許可の種類は2つあります。
| 許可 | 内容 | 譲受人の要件 |
|---|---|---|
| 農地法第3条 | 農地のまま売却(権利移動) | 農業者・農業生産法人など、実際に農業を営む者 |
| 農地法第5条 | 転用を伴う売却 | 市街化調整区域では原則不許可、例外要件あり |
3条許可は「譲受人が農業者であること」が厳しく審査されます。 農業者でない一般人は、農地を買えません 。
5条許可は転用と売買をセットで申請する制度ですが、市街化調整区域は都市計画法第7条第3項で「市街化を抑制すべき区域」と定められており、転用のハードルが通常より高くなります。詳しい手続きは「市街化調整区域の農地転用|売却までの流れ」をご覧ください。
宅地の側:都市計画法による建築制限
市街化調整区域内の宅地は、原則として新たな建築ができません。建てる場合は都市計画法第34条の各号に該当する必要があります。かつて存在した「既存宅地確認制度」は2001年(平成13年)に廃止されており、現在は自治体が独自基準で運用しているケースがあります(「線引き前宅地とは?」参照)。
2. 金融の壁:住宅ローンが組めない
金融機関は建物が建てられない・建てにくい土地に住宅ローンを設定しません。担保評価が低いためです。
買い手は 現金一括で購入できる人 に限定されます。市街化調整区域の物件購入を検討する層と、現金で1,000万円規模の不動産を即決できる層は、ほとんど重ならないのが実情です。
3. 出口の壁:転用先がほぼ太陽光、その太陽光も逆風
市街化調整区域の農地を事業転用する場合、現実的に成立する出口は限られます。住宅地としての分譲は不可、商業施設も困難、農業関連施設は採算が合いにくい。残されるのは 太陽光発電 ですが、ここにも壁があります。
FIT制度の縮小
資源エネルギー庁の固定価格買取制度では、太陽光発電の売電価格が年々低下しています。
| 年度 | 売電価格(事業用10kW以上) |
|---|---|
| 2012年度 | 40円/kWh |
| 2020年度 | 12円/kWh |
| 2026年度 | 10年平均14.58円相当(初期投資支援スキーム:1〜4年目24円、5〜10年目8.3円) |
さらに政策の方向性として、地上設置(野立て)型は支援対象から外れる傾向にあります。屋根設置に支援を集中させる流れで、 市街化調整区域の農地を太陽光に転用する事業モデルは縮小局面に入っています 。
加えて、市街化調整区域内で太陽光発電所を設置する場合、農地転用許可と都市計画法第29条の開発許可が必要なケースもあり、手続き面のハードルも高くなります。
4. 需要の壁:離農と空き家の二重供給過剰
離農の進行
農林水産省「農業構造動態調査」によると、基幹的農業従事者は2000年の240万人から2025年には103.6万人へと、25年で 約57%減少 しました。平均年齢は67.7歳、65歳以上が69.6%を占め、49歳以下はわずか12.6%です。
「親の農地を継ぐ次世代」は、統計的に消えつつあります。
空き家バンクの供給過剰
LIFULL HOME’S 空き家バンクには全国で「農地付き物件」カテゴリが存在し、100万円以下の物件も多数登録されています。 「ほどほどの郊外で農地付き住宅を買いたい人」は、すでに空き家バンクで物件を選べる時代 です。
中途半端な郊外の農地付き宅地が、価格を下げても新しい買い手を獲得できない構造的理由がここにあります。
政府は対応している — それでも残る穴
市街化調整区域・所有者不明土地・空き家問題は、過去10年で政府の最重要政策課題の一つとして扱われてきました。
| 年 | 制度・法改正 |
|---|---|
| 2014 | 空家等対策の推進に関する特別措置法 |
| 2018 | 所有者不明土地法 |
| 2021 | 民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法(公布) |
| 2023.4 | 改正民法施行、相続土地国庫帰属制度開始 |
| 2023.12 | 改正空家法施行(「管理不全空家」新設、固定資産税の住宅用地特例解除を早期化) |
| 2024.4 | 相続登記の義務化(過料10万円以下) |
増田寛也氏主宰の所有者不明土地問題研究会が試算したところ、所有者不明土地は2016年時点で九州本島の面積(約370万ha)を超え、放置すれば2040年に北海道本島並みの720万haに拡大、経済損失は20年累計6兆円に達すると見込まれています。
政府は毎年のように手を打ってきました。それでも、市街化調整区域の農地付き宅地のような物件は、なないろ土地査定の現場で依然として「査定不能」として残っています。
今後さらに増える理由
このカテゴリの相談は、今後も増えると見込まれます。
- 親世代の農業継承断絶(離農の波)
- 地方の人口減少と空き家の同時進行
- 太陽光転用モデルの縮小
- 相続発生に伴う放棄・未登記の連鎖
中途半端な郊外で、農地と宅地がセットになって相続される。次世代は都市で生活していて農業を継がない。買い手は現金客に限定され、出口は太陽光しかなく、その太陽光も逆風。 この鉄板パターンは、今後10年で確実に増えます 。
それでも手放したいなら — 打てる手は限定的
完璧な解決策はありません。いずれの選択肢にも壁があります。
| 選択肢 | 構造的な壁 |
|---|---|
| 隣地農家への売却交渉(3条許可) | 農地は売れる可能性があるが 宅地が残る 。セット解消にはならない |
| 相続土地国庫帰属制度 | 建物の解体、境界確定、抵当権抹消、10年分負担金の納付など要件が厳しい。市街化調整区域の宅地は実質承認が難しい |
| 自治体への寄付 | ほとんどの自治体は受け取らない。受け取る場合も用途要件あり |
| 空き家バンク登録 | 自治体に農地付き物件の在庫が積み上がっており、マッチング確率は低い |
| 相続放棄(相続が絡む場合) | 占有していない空き家なら改正民法940条で保存義務は発生しない。ただし不動産は自動処分されず、相続財産清算人選任には申立人が約100万円の予納金を負担する必要があり、結局塩漬けになる事例が多い(詳細は「相続放棄した空き家が倒壊したら誰の責任か」) |
| 保有し続ける | 固定資産税・最低限の維持管理コストは継続。詳細は「市街化調整区域の土地を持ち続けるコスト」。代を超えて持ち続けるのも現実的選択の一つ |
なないろ土地査定の姿勢
なないろ土地査定は、難物件を扱う専門サイトです。再建築不可、借地権、共有持分、災害区域、傾斜地など、 「売れない」と言われる物件の買取実績 を積み重ねてきました。
それでも、対応できない物件はあります。
- 売れる物件には責任を持って買い取り・仲介に動きます
- 構造的に出口のない物件は、安易な解決策を提示せず、正直に「対応できない」とお伝えします
- 「査定できない」は「悪い物件」ではなく、市場の構造的限界が原因です
買取・査定メディアが「どんな物件でも買い取ります」と書く時代に、 断る勇気を持つことが、相談者に対する誠実さ だと考えています。
市街化調整区域の農地付き宅地でお困りの方は、まずご相談ください。査定の可否を含め、現状を率直にお伝えします。


