崖条例とは?建築制限の内容と傾斜地売却への影響
この記事でわかること
Q. 崖条例とは何ですか?
Q. 崖条例で建築できなくなるのはどんな場合ですか?
Q. 崖条例は売却時に説明が必要ですか?
崖条例とは
崖条例(がけ条例)とは、崖の近くに建物を建てる際の安全基準を定めた自治体の条例です。建築基準法第19条第4項(「建築物の敷地は、これに接する道の境より高くなければならない」等の安全規定)を根拠に、各自治体が独自に制定しています。
崖条例の目的は、崖崩れによる建物の倒壊や住民の被害を防ぐことです。対象となる崖の近くに建物を建てる場合、安全な擁壁の設置や建物の構造制限が義務付けられます。条件を満たせなければ建築確認が下りず、再建築不可になります。
傾斜地の売却全般については「傾斜地・崖地の売却相場」もご覧ください。
崖の定義と自治体による違い
崖条例でいう「崖(がけ)」の定義は自治体ごとに異なります。これが崖条例の最も注意すべき点です。
| 自治体 | 条例 | 対象となる崖 | 建築制限の範囲 |
|---|---|---|---|
| 東京都 | 建築安全条例第6条 | 高さ 2m超・勾配30度超 | 崖の高さの2倍以内 |
| 神奈川県 | 建築基準条例第3条 | 高さ 3m超 | 崖の高さの2倍以内 |
| 福岡県 | 建築基準法施行条例第5条 | 高さ 3m超・傾斜30度超 | 崖の高さの2倍以内 |
東京都は高さ2m超から規制がかかりますが、神奈川県や福岡県は3m超です。同じ高さの崖でも、所在地によって建築制限の有無が変わります。
さらに、都道府県の条例に加えて 市区町村が独自の上乗せ規制 を設けている場合があります。たとえば東京都町田市は、東京都建築安全条例第6条に加えて「斜面地における建築物の建築の制限に関する条例」を独自に制定しており、高低差3m超の斜面地では共同住宅の階数制限などが追加されます。筆者も業務で町田市の斜面地物件を扱った際に、都の条例だけでなく市独自の条例も適用されることを確認しています。
土地を購入・売却する際は、都道府県の崖条例だけでなく、市区町村独自の上乗せ規制がないかも必ず確認してください。
建築制限の内容
建築制限区域
崖条例の対象となる崖がある場合、崖の上下から一定の範囲が建築制限区域になります。
崖の上に建てる場合は崖の下端から、崖の下に建てる場合は崖の上端から、それぞれ 崖の高さの2倍 の水平距離が制限区域です。たとえば高さ5mの崖であれば、崖から10m以内が建築制限区域になります。
この範囲内に建物を建てるには、安全な擁壁の設置や構造計算による安全性の証明が必要です。
擁壁の設置義務
建築制限区域内に建物を建てる場合、崖崩れを防止できる擁壁の設置が義務付けられます。擁壁はコンクリート造や鉄筋コンクリート造など堅固な構造で、適切な排水設備を備えている必要があります。
擁壁工事の費用は、種類や高さによって大きく異なります。
| 擁壁の種類 | 費用目安(1㎡あたり) |
|---|---|
| 間知ブロック積み | 2.5〜4.5万円 |
| コンクリート | 2〜5万円 |
| 鉄筋コンクリート(L型) | 3〜10万円 |
たとえば高さ3m・長さ10mの鉄筋コンクリート擁壁を設置する場合、30㎡ × 3〜10万円 = 90〜300万円が目安です。これに加えて地盤調査(5〜30万円)や排水工事が必要になることもあります。
建物の構造制限
擁壁を設置しても、崖に面する側の建物には構造制限がかかる場合があります。崖側に居室の開口部(窓)を設けない、崖側の基礎を通常より深くする、崖側を鉄筋コンクリート造にするといった対策が求められます。
崖条例で再建築不可になるケース
崖条例の存在そのものが問題ではなく、 条件を満たせない場合に再建築不可になる 点が重要です。
擁壁の安全性を証明できない
最も多いケースです。既存の擁壁に検査済証がない場合、安全性の証明が困難になります。昭和期に築造された擁壁はほとんど検査済証がなく、構造図面も残っていないことが珍しくありません。
安全性を証明するには構造計算や地盤調査をやり直す必要がありますが、費用が数十万〜数百万円かかる上に、調査の結果「安全でない」と判定される可能性もあります。
崖の高さと敷地の関係で擁壁設置が非現実的
崖が高い場合、必要な擁壁の規模が大きくなり、費用が土地の価値を上回ることがあります。こうなると経済的に擁壁設置が不可能で、実質的に再建築不可です。
災害危険区域に該当する
崖条例とは別に、以下の区域に指定されている場合はさらに厳しい制限があります。
- 急傾斜地崩壊危険区域 — 都道府県知事が指定。区域内の行為は許可制
- 土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン) — 居室のある建物は構造規制。開発行為は原則不許可
- 土砂災害警戒区域(イエローゾーン) — 建築制限はないが、重要事項説明での告知が必要
実例:崖条例で建築確認が下りなかった物件
筆者が業務で調査した物件で、崖条例により再建築不可となっているケースがありました。福岡県内の物件で、敷地に隣接する崖の高さが3mを超え、傾斜30度超に該当。敷地が崖の高さの2倍以内に入っており、かつ既存擁壁の安全性を構造的に証明できないため、建築確認が下りない状態でした。
概要説明には「前面道路による容積率制限有」とも記載されており、崖条例と道路幅の二重の制約を受けていました。こうした物件は接道義務の未接道と同様に、相場より大幅に安い価格で売り出されます。
売却価格への影響
崖条例の影響度によって、売却価格は大きく変わります。
| 影響度 | 状況 | 価格目安(平坦地比) |
|---|---|---|
| 軽微 | 制限区域が敷地の一部。擁壁で解消可能 | 70〜85% |
| 中程度 | 有効宅地面積が大幅に減少。擁壁費用が数百万円 | 50〜70% |
| 重大 | 再建築不可、または擁壁費用が土地価値を超える | 30〜50% |
価格に最も影響するのは 有効宅地面積の減少 です。建築制限区域の分だけ建物を建てられる面積が減るため、同じ敷地面積でも利用できる面積が小さくなります。加えて擁壁設置や構造強化の費用が買い手の負担になるため、その分だけ価格が下がります。
売却時に確認しておくべきこと
崖条例の対象となる土地を売却する場合、買主への重要事項説明で崖条例に関する事項が説明されます。売主としても、事前に以下の点を把握しておくと売却がスムーズです。
- 崖の位置・高さ・勾配
- 該当する崖条例の内容と建築制限区域の範囲
- 既存擁壁の有無と状態(検査済証の有無を含む)
- 再建築の可否と建築可能な条件
これらの情報が不十分だと、買主側の不安材料になり価格交渉で不利になります。また、崖条例の影響が重要事項説明で正しく伝わらなかった場合、売却後に契約解除や損害賠償を請求されるリスクもあります。
確認手順
ステップ1:崖の有無と規模の確認
現地調査で崖の有無を確認します。高低差・勾配・崖の長さを測定し、対象自治体の崖条例の定義(高さ2m超か3m超か)に該当するかを判断します。国土地理院の地形図やハザードマップも参考になります。
ステップ2:自治体の建築指導課で条例を確認
市区町村の建築指導課で、当該地に適用される崖条例の内容を確認します。崖の定義(高さ・勾配の基準)、建築制限区域の範囲、必要な擁壁の基準を確認してください。
ステップ3:既存擁壁の安全性確認
既存擁壁がある場合、検査済証の有無、築年数、ひび割れ・傾き・水抜き穴の詰まりなどの状態を確認します。検査済証がない場合は、構造計算や地盤調査による安全性の証明が必要になる可能性があります。
ステップ4:災害関連区域の確認
急傾斜地崩壊危険区域、土砂災害警戒区域(イエローゾーン)、土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)に該当するかを確認します。自治体のハザードマップや都道府県の県土整備事務所で確認できます。
まとめ
崖条例は自治体ごとに基準が異なるため、まず当該自治体の条例を確認することが第一歩です。
東京都は高さ2m超、神奈川県や福岡県は高さ3m超が対象で、いずれも崖の高さの2倍以内が建築制限区域となります。この範囲内で建物を建てるには安全な擁壁の設置が必要ですが、既存擁壁に検査済証がない場合や擁壁費用が非現実的な場合は、再建築不可になります。
売却時は重要事項説明で崖条例の内容を正確に説明する義務があります。崖条例の影響を受ける土地の売却については「傾斜地・崖地の売却相場」をご覧ください。傾斜地全般の特徴は「傾斜地・崖地の物件について」で解説しています。
条例の内容を調べたうえで、擁壁の工事費が土地の価格を上回ってしまい、手が止まるというのがこの分野でいちばん多い行き止まりです。既存擁壁に検査済証が見当たらない場合、買い手側は安全性の確認や、改修・築造替えが必要になるリスクを見込むため、査定でその工事費相当が控除されることがあります。検査済証が無いというだけで必ず造り直しになるわけではなく、既存資料の有無、行政との協議、擁壁の調査と構造安全性の確認によって判断が変わります。
このため、崖条例の対象になる土地は一般の売却では買い手が付きにくく、そのまま持ち続けている方が多い領域です。 当社は擁壁のやり直しが必要な土地や、検査済証が見当たらない擁壁のある土地も、現況のまま買取の対象にしています。工事をしてから売る必要はありません。まず現状でいくらになるかを確認したうえで、工事する・売る・持ち続けるを比べてください。


